音楽業界を征服? 知ってるようで知らない、同人音楽の世界にダイブする  vol.2

ボーカロイドや東方Projectに代表される"同人音楽"は、現在では"知る人ぞ知るジャンル"ではなくなり、確固たる地位を築いている。コミケの音楽版的イベントも定期的にいくつか開催されており、その中でも代表的な頒布会が"M3"。98年から毎年春と秋に開催されているこのイベントは徐々に規模を拡大し、参加ブースは1200以上、来場者は1万人を超えている。最近では、個人やサークル以外にも、音楽ゲームソフト、楽器、エフェクターなどの企業の参加も増えつつある。
音楽の1ジャンルとしては、このように注目度も認知度も上がっているが、どんなクリエイターや歌い手が居るのか、となると、正直よくわからない…というのが大多数を占めているのが現実だ。そこで、ORICON NEWSでは、2回に渡って、クリエイターと歌い手、それぞれ1人ずつクローズアップ。同人音楽を取り巻く状況や活動に対する想いをきいてみた。

ななひら

(2)  ななひら

ななひらは、“歌ってみた”や、“電波ソング”と称される萌え要素を含んだ楽曲を中心に歌う女性の歌い手。動画サイトの投稿の他にも、ライブや“M3”などのCD頒布会参加など、幅広く活動中だ。他の同人音楽のアーティストとのコラボレーションにも積極的で、本記事のvol.1で取り上げたt+pazoliteや、かめりあ、nayuta…といった人気クリエイターや歌い手とのコラボ作品も多数発表している。

コラボで作業をする時のやり取りは、直接会うんじゃなくて、ネット上でする事が多いです

――今回、ORICONミュージックストアで独占配信する『世界せいふく!ななmega王国』も、歌い手のmegaさんとのコラボ曲ですよね。

はい。megaさんとは普段から親交があって、8月にあった私のライブにもゲストで出て頂いたんですけど、今回のCDでは、お互いにソロとして出していた曲を交換してカバーしたものを収録することにしたんです。

――ななひらさんは今までにもいろんな方とコラボしてますが、コラボの面白さって、どんなところですか?

仲がいい人とやることが多いので、「一緒に何かやりたいね」って話から、お互いのスケジュールの合うタイミングを見つけて作業するんですけど、どんなところを合わせたら良くなるか、とか、こんなのはどう? って話しながら進めるのが楽しいです。あとは、お互いの知り合いやツテで作家さんやジャケットのイラストレーターさんを探すので、自分が今まで知らなかったり、気になってたけど接点が無かった方と繋がったりできて、交流が広がって楽しいです。作業は直接会うより、ネット上でチャットとかでのやり取りが多いですね。そういう場合は、文字のやり取りなので、うまくニュアンスが伝わらなくて難しいこともあったりはします。でも、もともとネットを通して知り合ってるので、実際に顔を合わせて作業するより、その方がラクだったりします。今回のコラボもそのやり方で作りました。

――録音はどこでされてるんですか?

自宅に防音室があるので、そこで。だから、深夜でも歌えますし、直しがあった時もスグに対応できます。自宅で作業できる利点は、録音のタイミングも〆切に間に合う範囲で、自分で調整できますし、急遽何かが入っても、スケジュールを自分でやりくりできる事ですね。でも、急に体調を崩すこともあるかもしれないし、詰めすぎるとキャパオーバーになるし、自分でマネージメントをする大変さはあります。

この仕事に興味を持ったのは、アニメがきっかけ。だが、地元の地上波では放映されている作品が少なく、情報はインターネットやSNSで得ていたそう。

それで、たくさんのアニソンを知って、カラオケで歌ったりCDを集めたりするうちに、アニメの作品だけじゃなく歌も好きになって、自分でも歌ってみたいな、と思うようになったんです。はじめは、ボーカロイドの"歌ってみた”をやってたんですけど、それを投稿サイトにupしてるうちにボカロPさんから「オリジナル曲を歌ってみませんか?」と声をかけて頂いたんです。オリジナル曲は、私の要望も取り入れて頂けるし、誰かと一緒に作業して、ディスカッションしながら作品が出来上がっていくのが、すごく楽しかったんです。それと、自分で企画をすれば、好きな方に曲を書いてもらうことができるんだ! っていう、いわゆるオタクとしての私欲が満たせることもわかりました(笑)。自分で企画を進めることの醍醐味ですね。「歌が歌いたい!」というよりも、好きな作家さんが書いてくださる。だから歌います! って気持ちの方が強いですね。基本、"自分が好きな事をして生きていきたい”というのがベースなので(笑)。

ななひらライブの様子

現状にあぐらをかいた時点で時代から置いて行かれる。 常に新たな事に挑戦していく事が大事なんです。

――お話をきいていると、ここまですごく順調な印象です。

はい。おかげさまで大きな苦労はせずに来ています。でも、流行も変わっていくし、インターネットの世界でも歌がうまい人や個性がある人がどんどん出てくるので、現状にあぐらをかかないようにしています。少しでも「私、勝ったわ!」とか思っちゃったら、そこから下降していく一方ですから。もちろん、王道でウケたモノをやり続けるのも大変だと思いますけど、新たな事に挑戦していかないと、時代に置いて行かれちゃうと思うんです。なので、私も新しい事に手を広げていきたいです。そうすれば、やることで新しいファンも増えるかもしれないし、合わなければやめればいい、という気持ちで、思いついたらとりあえずやってみようと思ってます。

――今考えてる“新しい事”はありますか?

"ななひら=電波ソング"というか、基本的に声が高くてワキャワキャしてて…ってイメージだと思うんですけど、それを徐々に変えたいな、って気持ちがすごくあって…。いきなりデスメタルとかでシャウトし始めたりしたら、皆さんビックリしちゃうと思いますけど(笑)、そういう事ではなくて、過去の自分の歌を聴くと、つたないなと感じて、もっとこういう歌い方をしたら、曲が良くなったんじゃないか、と思うことが多いんです。今までと違う歌い方を聴いて「こっちの方がいいね」って言ってもらえると、もっといろんな歌い方をしていきたいな、と思います。曲の世界観や、曲調を大事にして、自分が変えられるなら可能な範囲でそれに合わせていけるようにしていきたいですね。

――メジャーシーンに挑戦したい、という気持ちは?

今のところは、あんまり無いかな…。メジャーに行けば、出来ることも広がるだろうし、たくさんの方に聴いてもらえるとは思うんですけど、広がる分、制約も出てくると思うので、自分が好きなことをやるんだったら、やっぱりインディーズや同人の方がいいのかな、って、現時点では思ってます。それと、写真を撮られるのがあんまり好きじゃなくて…。友だちとプリクラとか自撮りとか、個人的な写真もほとんど撮らないんですよ。今は顔出しをしないで活動しているアーティストさんも増えてきていますが、全く出さないというのもなかなか難しいのかなあ、という部分もネックになっています。最近では、顔出ししなきゃいけない時は出してますけど、根が引きこもりなので(笑)、できれば出したくないのが本音です(笑)。

ななひら

貰った手紙や宛名の付箋、全部大切で捨てられないです

――ななひらさんも"M3"に参加されてますが、きっかけは?

地元に居る時から遠征で来てたので、7〜8年前から参加してますね。ボカロのオンリーイベントが関西であって、そこでお会いしたボカロPさん達から「関東ではM3っていうイベントがあるんだよ」って教えて頂いて知りました。最初は、ブースのお手伝いで行ってたんですけど、私も自分のブースを持って出してみたいな、と思って、出し始めたんです。思ったよりたくさんの方が私のブースに来てくださってありがたかったですね。当時はライブもやってなかったので、聴いてくださる方に直接会えて、お手紙を初めて戴いたのも"M3"の会場でした。
今まで戴いたお手紙はもちろん、差し入れに付いてた宛名の付箋も捨てられなくて、全部、専用の箱に入れてとってあります。最近4代目の箱を買いました。「この箱の中に、応援してくださる気持ちがいっぱい詰まってるんだなぁ」と思うと、力になりますね。最近は、列が出来てしまうほどたくさん来てくださるので、なかなかゆっくり応対できなくて申し訳ないんですけど…。

――配信や投稿とは違うCDの良さってどんなところですか?

私自身、好きなアーティストの曲はCDで買いたい派なんで、カタチとして残るのは魅力ですね。でも、ダウンロードだと0時販売とかあるじゃないですか? 何が何でも早く聴きたい! って、なると、そっちを利用しちゃいますけど。だからこそ、CDを出す時は、普通のパッケージじゃなくて、ちょっと凝ったデザインやパッケージで出したいって思いはあります。ファンの方でウォールポケットに私のCDを入れて、壁一面に飾ってくださってる方が居て、私も過去に同じことをやってたので、それを見た時に「一緒だな」って嬉しく思いました。実現したい計画はいろいろあるので、楽しみにして頂けたら、と思います。

――"同人音楽"というジャンルは、世間的にもかなり浸透してきた感があるんですが、まだ"オタクの音楽"という偏見も多いのが現実です。同人音楽が未知の世界の方々にメッセージをお願いします。

同人音楽もジャンルの幅がとても広いので、あくまで私が普段よく歌う電波ソングについてですが、いい意味でIQ低めの曲が多いんで、難しい事とか考えずに楽しくなりたい時には、すごくいいと思います。萌え系のイメージが強いですが、単純にそれだけじゃなくて、言葉遊びをしてる曲もありますし、いろんなタイプがあるんです。「萌え系なんてムリ!」 って先入観があって聴かず嫌いをしてるんだったら、一度試しに聴いてみて欲しいですね。もちろん声の好き嫌いはあるでしょうが、音楽の世界が広がると思います。

世界せいふく!ななmega王国

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