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- t+pazolite 独占インタビュー!
ボーカロイドや東方Projectに代表される"同人音楽"は、現在では"知る人ぞ知るジャンル"ではなくなり、確固たる地位を築いている。コミケの音楽版的イベントも定期的にいくつか開催されており、その中でも代表的な頒布会が"M3"。98年から毎年春と秋に開催されているこのイベントは徐々に規模を拡大し、参加ブースは1200以上、来場者は1万人を超えている。最近では、個人やサークル以外にも、音楽ゲームソフト、楽器、エフェクターなどの企業の参加も増えつつある。
音楽の1ジャンルとしては、このように注目度も認知度も上がっているが、どんなクリエイターや歌い手が居るのか、となると、正直よくわからない…というのが大多数を占めているのが現実だ。そこで、ORICON NEWSでは、2回に渡って、クリエイターと歌い手、それぞれ1人ずつクローズアップ。同人音楽を取り巻く状況や活動に対する想いをきいてみた。
(1) t+pazolite(トパゾライト)
t+pazoliteは、スピードコア、ハードコアと呼ばれる早いテンポの楽曲を得意とするクリエイター。同人サークル“HARDCORE TANO*C”で活動する他にも、『太鼓の達人』をはじめとする数々の音楽ゲーム(以下、音ゲー)に曲を提供しており、Twitterのフォロワーは約4万5000人と、絶大な支持を受けている。
"夢"が"目標"に変わり、"予定"になっていく―そうやって自分の方にたぐりよせていってる感じがあります
――音楽に興味を持ったのはいつ頃ですか?
中学生ぐらいのときに、音ゲーにハマったのがきっかけです。遊んでるうちに、使われてる曲が好きになって、ゲーム音楽やそれに関連するCDを買うようになりました。聴きながら「いつか自分でもこんな音楽が作れたらいいな」と、漠然と考えたりはしてましたけど、まさか本当にそれで食えるようになるとは思ってませんでした。当時の僕に「何年か後には『太鼓の達人』とかの音ゲーに、曲を提供するようになるんだよ」って言っても、絶対信じなかったでしょうね(笑)。
初めて曲を作ったのは中3の時です。でもそれは、本当に個人の楽しみの範囲で、せいぜい仲のいい友達に聴かせる程度で。まぁ中学生が初めて作る曲なんで、たいしたモノではなかったんですが、それでも友達は一応ほめてくれました。初投稿は、高校に入ってからです。ネットの曲作りのコミュニティに参加してて、そこの掲示板に。自分ではかなりの自信作だったのに、ボロクソに叩かれました(苦笑)。今の僕からみれば、そりゃ叩かれるわ、ってわかりますけど、当時はヘコんで、そこから数か月、曲を作りませんでした。
――でも、そこで「もう、やーめた!」とはならなかったんですね?
今もそうですが、曲を発表して評価を得ることより、作ってる過程が好きなんでしょうね。ひょんなことからフレーズを思いついて、それを試す…それが楽しくて、その繰り返しがずっと続いてる。曲作りは、飽きっぽい自分が唯一15年も続いている趣味、とも言えます。で、話が戻りますが、その叩かれた後ぐらいに、僕が今も所属している“HARDCORE TANO*C”というサークルで公募があって、思いきって応募してみたら、ラッキーにも採用されてしまって、今に至る…という感じですね。
大学卒業後は、ITエンジニアとして就職。並行して音楽活動も続けていたが、あくまでも趣味の範囲。音楽一本で行こうと決めたのは、意外にも最近だったそう。
僕の作る曲はニッチで、マス層には届かないモノなので、ある程度の人気や収入があっても、それだけで生活できるとは到底思えなかったんです。大学在学中に、音楽で目に見える結果も出なかったんで、普通に就職することにしました。で、副業的に活動してたんですけど、人気がジワジワ上がってきて、「コレはイケるんじゃ…?」って、思いきってエンジニアの仕事を辞めたんです。それが5年ぐらい前ですね。自分の才能を信じた、というより、その時の収入を信じました(笑)。「現状これだけ収入があって、あと何年かは大きく下がらないだろうから、(音楽だけでも)生活はできるな」と。
――中学生の頃の漠然とした夢が現実のモノになったんですね。
1つ夢があって、それが現実味を帯びてきた時点で、それは“夢”から“目標”に変わると思うんです。で、それを実現するためにアレコレしてると、その“目標”が“計画”になっていく―そうやって、どんどん自分の方にたぐり寄せていってる感じはありますね。でも、現時点では成功してると思うんですけど、今の自分の立ち位置や人気は、俯瞰で捉えてます。この状況が5年後10年後…と続くとは思ってないんで、「明日、就職活動を始めなきゃいけなくなるかも」という緊張感は常に持つようにしています。
今の時代、音楽を聴くことはステイタスではなく、趣味嗜好の1つでしかなくなった
――メジャーに行きたい、という想いはありますか?
昔はすごく強かったんですが、今は、出来るならしてみたい、ぐらいの気持ちですね。最近はYouTubeやsoundcloud、spotifyを介した流通やSNSがものすごく発展してきたおかげで、メジャーとインディーズの垣根もなくなりつつあって、特にメジャーにこだわらなくても個人で出来る事が本当に増えたので。もちろん、メジャーでしかできない事はまだまだたくさんあるとは思うんですけど…。
――たしかに発表の場もジャンルも本当に多岐に渡ってきて、人気を1つの指標で示すのは難しい時代になってきましたよね。
そうですね。以前は、誰もが知ってる1曲みたいなモノがあって、聴いてないと「知らないの? ダサッ」ってなったりもしましたけど、今はそうじゃない。音楽を聴くことはステイタスじゃなくて、趣味嗜好の1つでしかないし、それで全然いいと思います。
――頒布会というと、t+pazoliteさんも"M3”に参加されてますよね。
はい。最初は友達のサークルに委託するカタチで参加してて、それが2009年頃、定期的に参加するようになったのは2012年ぐらいからです。
――参加していく中で、感じた変化は何かありますか?
”歌ってみた”が全盛を迎えたぐらいから規模が大きくなってきて、来場者も増えましたね。そのおかげか、僕のファン層も若くなりました(笑)。小学生がお母さんと一緒に来てくれたりするんですよ。音ゲーに曲提供をしてる事も影響してると思うんですが、以前は20代の男性が多かったんですけど、最近は中高生や女性もだいぶ増えて、昔よりも幅広い層に広がってて嬉しいです。
作風に影響を与えたのは、民族音楽や渋谷系
――今回、ORICONミュージックストアで独占配信する『Dive High』も、"M3"で頒布するCDの中の1曲ですよね。
冬に5枚目のアルバムを予定してるんですが、その導入になる曲です。アルバムのコンセプトがSF的な"別世界にダイブする"というモノで、"ダイブ"の本来の意味は、潜るとか飛びこむですけど、上(High)に向かっていく非日常感を表しました。"だいぶHigh"って意味も含まれてます。タイトルを付ける際に、日本語の語感や意味を掛け合わせる事が多いんですよ。
――曲調に和風なテイストも感じました。
民族音楽がすごく好きなんで、そういったエッセンスを取り入れた曲を作ることが多いですね。僕が音楽に興味を持ち始めた2000年前半から中盤ぐらいのクラブミュージックには、トライバル要素を入れたモノはあったんですけど、和風や中華風のエッセンスの音楽はまだあんまり無かったんで、そんな作品を作るようになりました。
――"渋谷系"にも影響を受けたとか?
2000年代前半に、Cymbalsやcapsule、Plus-tech Squeeze Boxなどの"ネオ渋谷系"が流行った時に、僕もハマってよく聴いてたんですね。そこから先祖返りして、元の渋谷系やギターポップ、ボサノバなども聴き始めました。ハードコアなどの早いBPMの曲も好きで、今ももちろんよく聴くし、作る曲もそういったモノが多いんですけど、プライベートでは、ジャンルレスに聴くようにしています。ゆっくりした曲調のモノも最近はよく聴きますね。
――そうすると、今後、作風が変わっていく可能性もありますか?
大いにありますよ。実際、最近、スマホ用の音ゲーの"Deemo"で、ピアノバラードを作ったこともありました。そうすると"t+pazoliteらしさ"がなくなってしまいそうですが、いわゆる声ネタとか、早いテンポ、可愛らしいメロディ…っていうイメージの強い部分がなくても、“ころころ展開が変わったりする”みたいな僕らしさは出てると思います。僕自身、落ち着きが無いので(笑)。
――実際にピアノを弾いて作ったんですか?
鍵盤もギターも弾けないです。楽器は、大学のサークルでやってたトロンボーンぐらいで…。僕の今のスタイルの根幹はゲーム音楽やクラブミュージックなので、楽器ができなくても作れたりはします。なので、実際に演奏することはないですけど、例えばブラスの表現をする時に、こういう表現をした方が生っぽいな、ってわかるようになったという面では役立ってますよ。
――曲の発注が来た場合、ストックから出す事が多いですか?
以前は、思い浮かんだメロディやフレーズをストックしてたんですけど、最近は、発注が来てから考えるようになりました。調子がいい時は、1時間あれば(骨組みは)出来ます.。作った事がないようなジャンルの発注が来た時は、苦しむ事もありますけど、好き勝手やってもわりと許される作風なんで(笑)、もういいや! って、要求の範囲内で好きなように楽しく作業することにしています。でも、歌モノは時間がかかりますね。歌モノは、メロディとコードの組み合わせや展開を考えるのは楽しいんですが、歌詞を書くのがニガテで…。譜割りに合わせた言葉を思いつくのが難しい時があります。あと、歌いやすい母音を意識したりとか。例えば、"したい"って言葉は、"い"で伸ばすと歌いづらいんで、"したい〜"じゃなくて、"したぁ〜い"ってなるように…なんて事を考えてるうちにどんどん時間が過ぎていって、気づくと締め切り目前! って事も…。作詞は本当に難しいですよ。
――自分で歌ってみようとは思わないですか?
自分の声にコンプレックスがあるんですよ。ヘンな声、って思っちゃうんです。最近は、女声にボイスチェンジして歌う事もまれにありますけど、地声では抵抗がありますね。それに、僕の作る速い曲には合わないと思うんで…。今後、自分の声に合うような曲調の作品ができたら、歌うこともあるかもしれません。
――では最後に。今まで同人音楽に触れた事がない方達にメッセージを。
僕が作るような音楽はポップスにもあまり無いので、最初は、うるさいと思ったり雑音みたいに聞こえるかもしれませんけど、一度聴いてみて頂きたいです。それでハマったら、僕や他のクリエイターがこういった曲をいっぱい作ってますので、新しい世界に足を踏み入れてくれたら嬉しいですね。
(取材/構成 鳥居美保)