東海エリアを中心に活動するボーイズグループ、BOYS AND MEN(以下、ボイメン)と、祭nine.の躍進が続く。興行面でも、10年目を迎えるボイメンは今年1月にナゴヤドーム、祭nine.は令和初日の5月1日に日本武道館での公演を成功させている。 両グループとも、メンバーは東海地方出身または在住者だが、彼らの所属するフォーチュンエンターテイメントの社長・谷口誠治氏は大阪府の出身で、実は東京の芸能事務所・タニプロモーションの社長でもある。人気を全国区に広げた裏には名古屋での苦労もあったという。“名古屋気質”と戦ってきた10年間を谷口社長自身に語ってもらった。

谷口誠治氏

■ボイメン10年目、今だから言える当時の苦労…「なんで名古屋に来たんですか?」

ボイメンは来年の1月で10周年を迎え、現在は10年目の節目に当たる。誕生のきっかけになったのは、谷口氏が2009年に仕事で初めて名古屋を訪れたことだった。“三大都市”と言われながらも、地元独自の芸能が育っておらず、東京と大阪のタレントに頼っている状況を見て、名古屋で活躍するボーイズグループを育てようと思いつく。しかし、「それまで培った東京のプロダクションのノウハウは全く役に立たなかった」と谷口氏は語る。

「まず、閉鎖的というか、例えばTV局に行って話を聞いてもらおうとしても“何で名古屋に来たんですか?”という感じで、本気でぶつかっても跳ね返って来ないんですよ。東京はTVに出てCMに出たらビジネスになるんですが、名古屋でCMとなるとキャンペーンとかになってしまう。なので、TVに出て儲けようなんてことは全く考えずに、自分たちの宣伝だと捉えました。だから、名古屋ローカルのTV番組は弊社が出資して作ってるのがいくつもあります。そもそもボイメン誕生のきっかけになったオーディション番組(『IKEMEN☆NAGOYA』)も、ウチが枠を買い取って始めたんですよ。局との関係性は、東京よりも密接で、パートナーみたいな付き合い方ですね。インターネットの時代だと言われてますが、まだまだTVの力はスゴいと思ってるんで、TVが元気になるように僕らが応援というか、局と一緒になって新しいビジネスチャンスを作っていこうと頑張ってるところです」

対TV局、代理店より苦労したのは集客。お金を出して観る、ということに対してのハードルが他の地域より遥かに高く、東京や大阪のタレントはありがたがるのに、地元タレントはないがしろ、という傾向がある名古屋人を向かせるのは、至難の業だった様子。

谷口誠治氏

■閉鎖的で新しいモノを受け入れにくい“名古屋気質”との戦い

「名古屋は、新しいモノ、自分たちが信用していないモノにお金を出す、という文化が無いんです。無料イベントにはたくさん集まるのに、いざお金を取るとなると来ない(苦笑)。名古屋の人にとって“タレント”は、全国ネットのTVに出ている人。だから、地元のタレントを盛り上げよう! というのは全く無いし、自分たちでスターを見つけよう、というのも無かった。ボイメンは最初“男性版・宝塚”をコンセプトに公演をしてたんですが、全国ネットどころかローカルにもほとんど出てないヤツらのミュージカルにお金を出して見に来るわけがないんです。ある程度は想定内ではあったんですが、それが1年ぐらい続いてしまって…」

そんな厳しい状況を打開するべく始めたのが、宣伝の為の劇中歌のコンサート。そのおかげで徐々に動員は増えたが、全国ネットの番組にはもちろん、名古屋の番組にもなかなか出ることができない状況は続いた。だが、結成3年目ぐらいのときに、転機が訪れる。

「例えば、TV番組を10本作ったら、1週間のうち1日1回はどこかで流れる、もしくは、どこかの曜日に集中したら、その日はどの局にチャンネルを合わせても誰かが出てる―そうなったら、別に全国ネットじゃなくてもいいじゃないか、と思ったんです。で、名古屋のTV局を走り回って14本レギュラーを取りました。その他に初の冠番組(『ボイメン☆騎士』)もスタートさせました。番組内容をどうするか、となって、僕が“ガイシホール公演”という目標を提案したんです。

当時の動員は200人弱だったので、局サイドは“1年間番組やったぐらいで1万人集まるわけないだろう。アタマおかしいのか!?”と(笑)。でも、“それが面白いんじゃないですか! 失敗したらウチが全部リスク背負うから”って押し通してスタートさせました。並行して14本の番組での露出もあったから、名古屋の人に浸透して、結果、1万人ライブは成功しました。それまでずっとミュージカルをやってきたけど、番組14本とたくさんのイベント出演で、練習する時間も公演する時間もなくなっちゃって、そこからライブ活動にスイッチして、今のボイメンのスタートになったんです」

谷口誠治氏

■“東京進出”はしない。手が届かない“スター”ではなく、“親しみやすい町おこしお兄さん”

名古屋での知名度も上がり、人気は全国に広がったボイメン、そしてその弟分の祭nine.だが、“地元で売れると東京進出”という従来のパターンは踏まず、この先もずっと活動の拠点は名古屋。当初からの“地元を盛り上げる町おこしお兄さん”というスタンスを崩すつもりは無いし、身近な存在でいたい、と言う。

「スターだったら、手が届かない方が夢を見られるけど、彼らは、近所の兄ちゃんや友達でいいんです。名古屋だと、その辺フツーに歩いてますからね(笑)。“知り合いのアノお兄さんがやるなら、応援に行こうかな”という感覚。だから、ファンも幅広いですよ。家族連れや3代に渡って来る方、男性も多いです。スターではなく、地元を一緒に盛り上げていく存在。夢を一緒に追いかけるんだ! っていうのがファン層の中心になっていると感じます。2組の違いとしては、ボイメンは“カッコよくて面白い”。武道館で、豪華なセットや派手な特効で会場が盛り上がって、歌が始まると思いきや、30分コントやってましたから(笑)。対して、祭nine.は若いときにしかできないパフォーマンスという事で、アクロバットを中心にした“カッコよさ”を出してます」

谷口誠治氏

■名古屋から全国へ、ではなく「全国から名古屋」に。そして、「世界から名古屋」に

ここ数年で、Iターン、Uターンなど、東京へ行かずとも地元で成功できる、という流れが加速しているが、谷口氏は「芸能に関しては、まだまだ東京の比重が明らかに大きい」と言い切る。

「これからの時代、芸能を盛り上げて行くには、やはり地方が強くなっていかなければと思っています。弊社でも“BOYS AND MENエリア研究生”というのが、名古屋以外で大きくは、東京、関西、福岡などにあります。これは、自分の住む土地でボイメンイズムを感じてもらって、名古屋のように地元を一緒に盛り上げて行きましょう、というコンセプトです。しかも、まだまだメンバーは募集中です。」

そして、今後は日本だけではなく海外にも視野を広げている、とのこと。海外での名古屋の認知度は低い上、“最も魅力に欠ける都市”(名古屋市“都市ブランド調査”)という不名誉なレッテルを貼られている名古屋に、ボイメンや祭nine.をきっかけに来てもらえるようにしたい。と考えている。

「ボイメンはアジア圏でも番組をやっていますが、番組を見た外国人が、紹介した場所に行ってみたい、この子たちに会ってみたい、と興味を持って、名古屋を訪れてくれるのが理想です。そして、女子4人組の小野小町という日舞や太鼓、殺陣などの日本の伝統芸能とイリュージョンを駆使したパフォーマンス集団を9月に出すんですが、彼女たちはヨーロッパを視野に入れています。小野小町は“世界三大美女”と言われているのに、世界ではほとんど知られてない。愛知県のあま市で亡くなったと言われているので、そこから全国に発信して、来年の東京オリンピックを機に世界に知らしめる、というプロジェクトです。それで、名古屋に興味を持った外人観光客が、成田から名古屋に、ゆくゆくはダイレクトにセントレア(中部国際空港)に降り立ってもらいたいですね」

取材・文/鳥居美保
企画・構成/ZIGUZAGU

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