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「鷲崎健のロレンチーニ便」第53回
第53回(2021/02/10)
■テーマ「 爪 」
高校2年の時に初めてギターを触り出してからもう30年ばかり経つ。飽きっぽく面倒くさがりの性格のため2年と同じことが続くことのない自分にとって、これはかなり特別なものであると言えよう。
中学の時から音楽は好きだった。
時は80年代。MV文化が大きく花開き音楽好きしか知らなかったようなマニアックな洋楽も映像にポップさがあれば広く受け入れられた。マイケル・ジャクソンやマドンナの出世はMV無しでは語れないし、ピーター・ガブリエルやダイアー・ストレイツがあんな風に受け入れられたのもMV文化の恩恵なしには考えられない。
シュガーキューブスとか好きだったなあ。あんまり売れなかったけど。その後その売れないバンドのボーカルが『ビョーク』として世界中のアイドルになっていくのとか、80年代の夢と混沌を表してるようでなんだか嬉しくなってしまう。
TACOとかジェフ・ヒーリー・バンドとか、MV文化が無ければ触れることの無かったバンドもたくさんある。
面白い時代でしたね。ブームというのはそのブームの文脈に乗ってさえいればどんな歪なものも受け入れられるということで、例えばビジュアル系バンドのブームがあった時にはただお化粧をしているという理由だけで商業ラインに食い込んでくる反コマーシャリズムなバンドがいくつもあった。
落語ブームもインド映画ブームも同様。ブームに乗る、ということの気恥ずかしさはある程度あるだろうが、その都度都度、ブームが無ければアッパーグラウンドに現れなかったものも存在するのである。
とまあ、あたかも輝かしい80'sカルチャーにどっぷり浸かっていたいたような書きっぷりだが、実際は全くそんなことはない。狂乱の時代は一緒に踊る相手のいない人間にとってはノイズだらけの騒音の時代なので、共有/共感の相手のいない自分には随分息苦しい時代だった。
シュガーキューブスもTACOもジェフ・ヒーリーも一人イヤホンの中からしか鳴らなかった。振り返って、写真の中の自分が笑っているから楽しかったような錯覚を覚えてるだけである。もちろんその逆もある。孤独だった記憶があるから寂しかったはずだと。
しかし真面目に思春期を送っていればある程度孤独を覚えるのは当たり前の話で、時代と寄り添っていようがいまいがそれぞれに特有の孤独と、孤独の連帯というのはあったのだろう。
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