「鷲崎健のロレンチーニ便」第54回

第54回（2021/02/24）

■テーマ「名付ける」

　文化放送A＆Gで月曜から木曜まで毎日やっている帯番組「鷲崎健のヨルナイト・ヨルナイト」がめでたく1000回を迎えることができた。約5年間、毎日大して意味のないことを喋り続けた夜が1000回もあるわけだ。

　『千一夜物語』ならシェヘラザード姫がシャハリアール王の冷たい心を溶かすだけの時間が流れている。そのどれもが楽しく甘美な時間だったはずだが、思い出そうとしても切れ端のような断片しか思い出せない。『オズの魔法使い』に出てくるカカシのように、愉快の断片がいっぱい詰まった一つの生き物のようである。
　短いセンテンスで世界的名作の名前を二つも出してしまった。お恥ずかしい。

　ヨルナイト・ヨルナイトという番組名は自分でつけた。
　タイトル付けのセンスがあまり無いと自覚している自分にとっては随分良くできた方だと我ながら気に入っている。Baby Baby とかダーリン・ダーリンとか百メートル先から見ても適当さの伺える曲名でお馴染みの私である。

　いやでも良く考えると前述の二つと構造は変わらないなヨルナイト・ヨルナイト。同義反復的な言葉の繰り返しでしかない。「日曜サンデー」や「毎日がエブリデイ」とまあほぼほぼ同じである。
　ここには「夜である」という情報以外には何もなく、分解すると「夜が四回ある」ことがわかり、尚且つヨナヨナ（夜な夜な）と略すことができる。何よりもヨルナイト・ヨルナイトと言う言葉のリズムがポップである。

　ご賛同得られるかどうかわからないが、タイトルのポップさと言うのは番組においてとても重要なファクターであって、これが「鷲崎健の一攫千金ラジオ」（候補の中に実際あった）（もちろん僕が考えたわけでは無いですよ）であった場合番組そのものの肌触りのような物が変わってきてしまうのだ。

　そんなわけで今回は「名付ける」と言う行為について。

　以前ちょっと似たようなテーマでも書きましたが。その時は確か自曲のタイトルで気に入っているものについて書いたと思う。（※編注：第38回「ネーミング」参照）そもそもタイトルというのは取引したりするために必要なものなので人とやり取りしない限り必要がない。夏目漱石は実際家でクロネコを飼っていたが生涯名前をつけなかった。曰ク「呼んでも来ないから」。然もありなんである。

　なのでレコーディングを終えCDに表記する段になってなおタイトルの決まらない曲もあった。歌録りの際に他の曲とごっちゃにならないように付けていたあだ名のような呼称が結局そのまま正式タイトルになってしまった。「ワルツ」である。今ではそのタイトル以外は考えられないくらい曲そのものにピタリくっついてしまって剥がれない。
　名付けにはそういう魔力みたいな物が存在するので迂闊に命名してはいけないのだ。

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